医療機関がSNSを活用する際には、患者とのコミュニケーションを強化し、有益な情報を提供する絶好の機会ですが、これには厳格なルールが伴います。
本記事では、医療サービス提供者がSNS上で情報を共有する際に遵守すべき医療広告ガイドラインについて解説します。
医療広告ガイドラインは、患者が適切な情報に基づいて医療サービスを選択できるようにし、不適切な広告による誤解や被害を防ぐために設けられたルールです。
このガイドラインを理解し、適切に適用することで、医療機関はSNSを効果的に利用し、患者との信頼関係を築くことができます。
医療広告ガイドラインとは?
医療広告ガイドラインとは、「医療サービスの提供者が宣伝活動を行う際に守るべきルール」のことです。
患者が適切な情報に基づいて医療サービスを選べるようにするため、そして、不適切な広告による誤解や被害を防ぐために設けられています。
簡単に言うと、医療広告ガイドラインは「何を言って良いか」「何を言ってはいけないか」を定めたルールブックのようなものです。
医療機関が自身のサービスを宣伝する際に、患者に誤解を与えない、信頼性や公平性の高い情報提供を目的としています。
また、医療広告ガイドラインでは、治療法の効果について誇大な表現をしたり、一定の条件を満たすことなく未承認の治療法を推奨することは禁止されています。
患者の体験談を用いる場合も、その体験が個人の感想であることを明確にし、「全ての人に同じ結果が保証されるわけではない」という点も示さなければなりません。
また、医療広告ガイドラインが関わる「広告の定義」は以下の通りです。
法第2章第2節「医業、歯科医業又は助産師の業務等の広告」の規定による規制の対象となる医療に関する広告の該当性については、次の①及び②のいずれの要件も満たす場合に、広告に該当するものと判断されたい。
① 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
② 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)
なお、①でいう「誘引性」は、広告に該当するか否かを判断する情報物の客体の利益を期待して誘引しているか否かにより判断することとし、例えば新聞記事は、特定の病院等を推薦している内容であったとしても、①でいう「誘引性」の要件を満たさないものとして取り扱うこと。
ただし、当該病院等が自らのウェブサイト等に掲載する治療等の内容又は効果に関する体験談については広告に該当すること(その上で省令第 1 条の 9 第 1 号の規定に基づき禁止されること)。
また、②でいう「特定性」については、複数の提供者又は医療機関を対象としている場合も該当するものであること。
引用 厚生労働省「医療広告ガイドライン」
SNSでOKな発信内容の具体例
SNSは医療機関にとって、患者と直接コミュニケーションを取り、情報を共有する便利なツールです。
しかし、医療広告ガイドラインを遵守しながら情報発信する必要があります。
以下では、SNSで表現可能とされている医療広告の具体例を紹介し、これらがどのように患者との関係構築に役立つかを探ります。
クリニックの基本情報
クリニックの所在地、連絡先、診療時間、診療科目などの基本情報は、患者が医療機関を選ぶ際の重要な基準です。
SNSを通じてこれらの情報を定期的に更新し、アクセスしやすくすることで、患者の訪問を促進します。
医師やスタッフの紹介
医師やスタッフの資格、専門分野、経歴を紹介することで、クリニックの専門性や信頼性をアピールできます。
また、人柄や趣味などの情報を共有することで、患者との距離を縮め、信頼関係を築くことが可能です。
補足として、医療広告可能な資格は明確に指定されています。
指定された資格以外の名前を使わないよう注意しましょう。
広告可能な資格数 | |
医 師 | 55 |
歯科医師 | 5 |
薬剤師 | 1 |
看護師 | 27 |
広告可能な資格に関しては「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について」のページにて確認してください。
健康情報の提供
予防医学に関する健康面のアドバイスは、患者の健康維持に貢献します。
SNSを通じて定期的に健康情報を提供することで、患者にとって価値の高いアカウントとなるでしょう。
実際にブログだけではなく、XやYouTubeなどで人気を得ている医師アカウントも多いです。
イベント情報
健康セミナーや予防接種の案内など、クリニックが主催するイベント情報をSNSで共有することは、患者の健康意識を高める絶好の機会です。
ぜひ積極的に開催しましょう。
治療法やサービスの一般的な説明
クリニックが提供する治療法やサービスについて、誇大広告にならない範囲で一般的な説明を行うことは、患者が治療選択をする際の重要な情報源となります。
具体的な治療効果の保証や比較、未承認の治療法の推奨は避けるべきです。
絶対に避けるべきSNS上の医療広告違反行為
SNSでは、患者の誤解を招かないよう、以下の違反行為を避ける必要があります。
誇大広告
「確実に治る」「副作用が全くない」といった絶対的な表現は、医療行為の不確実性を無視しているため誤解を招きます。
治療効果や副作用の有無は個人差があり、全ての患者に同じ結果が保証されるわけではありません。
このような誇大広告は、患者の誤解や健康被害を生み、最終的には病院やクリニックの信頼性を損ないます。
未承認治療法の宣伝
厚生労働省の承認を受けていない治療法や医薬品、医療機器の宣伝は法律に違反します。
未承認の治療法を推奨することは、患者の健康や安全を危険にさらす可能性があり、法的な責任問題にも発展する恐れがあります。
ただし、限定解除要件を満たせば広告可能となるため、その点については記事の後半で解説します。
ビフォーアフター写真の不適切な使用
治療前後の写真を不適切に使用することも避けるべきです。
特に加工された写真や、誤解を招く可能性のある写真の掲載は、実際の治療結果と異なる印象を与えるため問題となります。
ビフォーアフター写真を使用する場合は、現実的な結果を正直に反映させる必要があります。
個人の体験談の誤用
患者の体験談を共有する際には、その体験が個人の感想であることを明確にし、全ての人に同じ結果が得られると誤解させないようにする必要があります。
また、患者の同意を得ずに個人情報や体験談を公開することは、プライバシーの侵害にもつながります。
価格競争を煽る広告
「最安値保証」など、価格競争を煽る広告は、医療サービスの品質や安全性よりも価格を優先する印象を与え、医療機関の品位を損ねることになります。
医療広告では、治療の質や患者の安全を最優先に考えるべきです。
医療機関がSNSを安全に活用するためのチェックリスト
以下のチェックリストは、医療機関がSNSを安全、かつ効果的に活用するためにお役立てください。
情報の正確性
医療情報は日々更新されているため、常に最新の情報を提供することが大切です。
古い情報により誤解が生じないよう注意しましょう。
また、提供する情報が正確であることを確認し、根拠がない主張や、安全性が確立されていない治療法を推奨しないように心がけましょう。
公平性の保持
医療機関が製品やサービスを勧める時は、患者が自分に合った医療を選べるように、偏りのない情報を提供することが大切です。
他のクリニックの批判を行ったり、取り扱いがない薬剤や機器を過度に批判することは避けましょう。
プライバシーの尊重
患者の写真や体験談を共有する前には、事前に了解を取りましょう。
患者の個人情報は慎重に扱い、プライバシーの保護を徹底してください。
ガイドラインの遵守
医療広告ガイドラインをはじめとした、医療広告に関する法律やガイドラインを理解し、遵守しましょう。
また、ガイドラインや法律は継続的に更新されます。
常に最新情報を収集し、変化に対応できるようにしましょう。
リスク情報の提供
治療に伴うリスクや副作用については、正直かつ明確に情報提供しましょう。
また、治療の結果について過度な期待を持たせないように、現実的な情報を伝えることも大切です。
SNSでの発信と限定解除
医療機関のSNS活用において、「限定解除要件」の理解と適用は重要なポイントとなります。
限定解除要件とは、医療広告ガイドラインにおいて定められた特定の条件を満たすことで、通常は広告できない情報の提供を許可する制度です。
この制度の適用により、医療機関はSNS上でより具体的かつ詳細な情報を患者に提供することが可能になります。
そのためには以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 情報提供の適切性: 提供される情報は、医療に関する適切な選択に資するものである必要があります。
- 問い合わせ先の明示: 患者が容易に情報を照会できるよう、問い合わせ先を明示する必要があります。
- 自由診療に関する情報提供: 自由診療に関する治療内容や費用についての詳細な情報を提供する必要があります。
- リスク情報の提供: 治療に関連する主なリスクや副作用についての情報を提供する必要があります。
限定解除を満たすことでSNSでの発信が可能になる情報
限定解除要件を満たすことで、医療機関はSNSを通じて患者に対しより幅広い情報を提供できるようになり、患者とのコミュニケーションを深めることが可能になります。
例えば、自由診療の治療オプションや、治療に関連するリスクの情報提供は、患者の適切な医療選択を支援し、医療機関と患者との信頼関係を強くします。
限定解除要件を満たすことで、SNSでの発信が可能になる情報は以下の通りです。
治療前後の写真の掲載
ビフォーアフターの写真を用いて、治療の効果を視覚的に示すことが可能になります。
これは特に美容医療や形成外科などの分野で有効であり、患者が治療の期待値をリアルに把握するのに役立ちます。
ただし、写真は加工せず、現実的な結果を正直に反映させる必要があります。
自由診療の治療内容の詳細な説明
保険適用外の治療オプションについて、その内容、期待できる効果、必要な治療回数、治療期間などを詳細に説明することができます。
これにより、患者は自分に最適な治療法を選択するための情報を得ることができます。
治療に関連する費用の明示
自由診療における治療費用の範囲や、標準的な費用を明示することが可能になります。
これは、患者が経済的な観点から治療を検討する際の透明性を高め、信頼関係の構築に寄与します。
リスクや副作用に関する情報の提供
治療に伴う主なリスクや副作用についての情報を提供することができます。
これにより、患者は治療を受ける際のリスクを理解し、より情報に基づいた意思決定を行うことができます。
広告許可されていない診療科目名や学会資格の言及
通常は広告できない特定の診療科目や、学会資格についても、限定解除の条件下では言及可能になります。
医療広告ガイドライン違反を防ぐためのベストプラクティス
医療広告ガイドライン違反を防ぐためのベストプラクティスは以下の通りです。
厚生労働省の事例解説書を参考にする
厚生労働省から提示されている「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第3版)」は、テキストだけではなく図解も交えて説明されていて、非常にわかりやすいです。
医療広告ガイドラインを理解するためにも、まずはこちらに目を通しておくといいでしょう。
教育とトレーニング
医療マーケティングにおいては、医療機関のスタッフ全員がガイドラインに対する理解を深めることが重要です。
それを実現するには、教育プログラムや課題を用意し、スタッフが最新の規制やその適用方法を常に把握していることを確認する組織作りをする必要があります。
情報の監査
SNSの投稿内容を定期的にレビューし、提供される情報がガイドラインに沿っているかどうかを確認します。
写真、テキスト、リンクなどのコンテンツ内容全てが含まれます。
専門家の意見を求める
不明瞭な点や判断が複雑なケースに直面した場合、法律関連の専門家(行政書士や弁護士等)や医療広告に精通したコンサルタントの意見を求めることが大切です。
専門家のアドバイスを受けることで、潜在的なリスクを回避し、ガイドラインに準拠した情報提供が可能になります。
透明性の確保
広告内容に関して疑問や不安を持たれた場合、迅速に対応し、必要な情報を提供することが重要です。
透明性を確保することで、患者の信頼を得ることができ、長期的な関係構築に寄与します。
まとめ
今回は医療機関がSNSを活用する際に遵守すべき医療広告ガイドラインについて解説しました。
医療広告ガイドラインは、患者が適切な情報に基づいて医療サービスを選択できるようにし、不適切な広告による誤解や被害を防ぐために重要なルールです。
SNSで許可されている医療広告の具体例として、クリニックの基本情報、医師やスタッフの紹介、健康情報の提供、イベント情報、治療法やサービスの一般的な説明が挙げられます。
一方で、絶対に避けるべき違反行為には、誇大広告、未承認治療法の宣伝、ビフォーアフター写真の不適切な使用、個人の体験談の誤用、価格競争を煽る広告が含まれます。
情報の正確性、公平性の保持、プライバシーの尊重、ガイドラインの遵守、リスク情報の提供を徹底し、医療広告ガイドラインに違反しない発信をすることが大事です。
また「限定解除要件」の適用により、通常は広告できない情報の提供が可能になる点も理解し、上手く活用するといいでしょう。
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【参考文献】