
暑い日には外で食べるアイスを、雨の日には家で食べる箱入りのアイスを。同じアイスクリームでも、天気によって欲しくなる商品も、響く言葉も変わります。
トルコのアイスクリームブランド「Algida(アルギダ)」は、この変化に合わせて広告の中身そのものを切り替える取り組みを行いました。都市ごとの今の天気に合わせて、1,000種類以上の広告を自動で出し分けたのです。さらに、同じ予算・同じターゲットで通常の広告と比べる検証を行い、コンバージョン率が121%高くなるという結果を確かめています。
本記事では、このAlgidaの事例について、仕組み、比較検証の方法、成果の読み解き方を詳しく解説します。日本で応用する方法も紹介しますので、天気に合わせた広告づくりを考えている方はぜひ参考にしてください。
Algidaの事例の概要
| ブランド | Algida(ユニリーバのアイスクリームブランド) |
|---|---|
| 国 | トルコ |
| パートナー | Getir(即配アプリ)、Mathrics(クリエイティブ・データ制作) |
| 使った天気 | 都市ごとの今の天気(気温の帯、風、雨など) |
| 媒体 | Meta広告(スマートフォン・タブレットのみ) |
| 広告の数 | 1,000種類以上 |
| 主な成果 | 通常の広告と比べて、コンバージョン率121%増、売上2.5%増、広告費用対効果(ROAS)1.1%増 |
この取り組みは、モバイルマーケティングの国際的な賞「MMA Smarties」で受賞しています。
背景:アイスの売上は、その日の天気で大きく変わる
アイスクリームは、天気の影響を特に受けやすい商品です。天気が少し変わるだけで、ネット広告から生まれる売上も目に見えて変わります。そしてトルコでは、夏であっても都市ごとに毎日天気が変わります。
さらに、天気によって売れる商品の種類も変わります。寒い日や雨の日には、家で食べるための箱入りのアイスが買われ、暑い日には外で食べる1本売りのアイスが買われる。同じブランドの広告でも、天気によってすすめるべき商品が違うのです。
Algidaは、即配アプリのGetirと組んで売上を伸ばすことを目指しました。重視したのは、広告費用対効果(ROAS)を下げずに売上を増やすことです。
着眼点:「誰か」より「今、どんな天気か」
Algidaが立てた仮説は、「今アイスを買うかどうかは、年齢や性別といった属性よりも、その人がいる場所の天気で決まる」というものでした。
そこで、一般的な広告のように年齢や興味関心で配信先を分けるのではなく、ユーザーが今いる都市ごとにキャンペーンを分けて配信しました。都市ごとに天気が違うなら、都市ごとに違う広告を出せばよい、という考え方です。
施策の仕組み
天気ごとに1,000種類以上の広告を用意する
Algidaは、制作パートナーのMathricsと組み、1,000種類以上の広告を制作しました。気温の帯や、風・雨といった天気の状態ごとに、メッセージや見せる商品を変えています。
たとえば次のような出し分けです。
| 天気 | 広告の内容 |
| 風がない日 | トルコ語で「風が吹かない」を意味する「Esmiyor」というコピーの広告。すべての広告の中で最も成果が高かった |
| 雨の日 | 「家でアイスを楽しもう」というメッセージで、箱入りの商品を中心に見せる |
| 気温の帯ごと | 気温に合わせて内容を変える(具体的な内容は非公表) |
天気に合わせて広告を自動で選ぶ
Mathricsは、天気の状態に合わせて使う広告を自動で選ぶデータの仕組み(データフィード)をつくりました。ある都市で「雨」「風がない」といった条件になると、その条件に合った広告が自動で表示されます。
配信はMetaで、購入はGetirのアプリへ
広告はMeta(Facebook・Instagram)で配信し、Getirのアプリでの購入につなげました。以前の経験からパソコンよりスマートフォンのほうが成果が良いと分かっていたため、配信はスマートフォンとタブレットに限定しています。また、メーカーと小売が連携して広告を出せるMetaの仕組み(CPAS)を使い、Getirのアプリでの購入までを測定できるようにしました。
Algidaは、条件に合わせて広告の中身を自動で切り替える手法(ダイナミッククリエイティブ)を、ネットのディスプレイ広告ではこれまでも多く使っていました。しかし、Metaでこうした広告を行うのは今回が初めてでした。
比較検証:同じ予算・同じターゲットで、広告の中身だけを変えた
この事例で特に参考になるのが、効果の確かめ方です。初めての取り組みだったため、Algidaは「天気に合わせた広告」と「いつもの広告」を比べる検証を最初から組み込みました。
- 2つのキャンペーンを、同じ予算・同じターゲットで同時に配信
- 違いは広告の中身だけ:一方は天気に合わせて切り替わる広告、もう一方は天気に関係なく同じ内容の通常の広告
予算やターゲットをそろえることで、成果の差が「天気に合わせたかどうか」によるものだと判断できる設計になっています。
成果:コンバージョン率が121%増
| コンバージョン率 | 121%増 |
|---|---|
| クリック率 | ほぼ同じ |
| 売上 | 2.5%増 |
| 広告費用対効果(ROAS) | 1.1%増 |
| 獲得単価 | 通常の広告より低い(数値は非公表) |
天気に合わせた広告は、通常の広告と比べてコンバージョン率が121%高くなりました。クリック率はほぼ同じだったことから、広告を見てクリックする人の数は変わらなくても、クリックした人が実際に買う割合が大きく上がったことが分かります。天気に合った商品とメッセージを見た人は、アプリを開いたあと迷わず購入に進んだと考えられます。
成果の数字をどう読むか
一方で、売上は2.5%増、広告費用対効果は1.1%増と、コンバージョン率ほど大きな差にはなっていません。資料では理由が説明されていませんが、たとえば1回あたりの購入金額の違い(雨の日の箱入り商品と、暑い日の1本売りでは単価が違う)なども影響している可能性があります。
大切なのは、Algidaの目標が「広告費用対効果を下げずに売上を増やすこと」だった点です。同じ予算で、効率を落とさずに売上と購入率を上げられたことが確認できたのは、施策を続けたり広げたりするうえで大きな意味があります。天気を使った広告の効果を検討するときは、1つの指標だけでなく、購入率・売上・費用対効果をあわせて見ることが大切です。
その後の展開:天気とラマダンの時間を組み合わせて拡大
Algidaはその後、天気に合わせた広告の取り組みをさらに広げています。別のキャンペーンでは、気温に加えて、ラマダン(断食月)の日没後の食事(イフタール)の時間にも合わせて広告を切り替えました。寒い日や雨の日には家で食べる商品、暑い日には外で食べる1本売り、イフタールのあとにはデザートと、生活の場面に合わせた提案をしています。
このキャンペーンでは、5,000点を超える広告を、制作費を88%抑えて制作。天気に合わせた広告は、クリック率が53%高く、広告費用対効果は3.5倍になったと報告されています。Meta広告だけでなく、Googleのディスプレイ広告、ラジオ、デジタルの屋外広告まで、天気に合わせた広告の考え方を広げています。
Algidaの事例から学べる成功のポイント
天気によって「すすめる商品」まで変えた
Algidaは、天気によって広告を出すかどうかを決めるだけでなく、天気ごとに見せる商品とメッセージを変えました。雨の日に1本売りのアイスを見せても響きにくいですが、「家で楽しむ」箱入り商品なら、雨の日だからこそ買う理由になります。天気を、売上を下げる要因ではなく、別の商品をすすめるきっかけに変えています。
属性より「場所と天気」で配信を分けた
年齢や興味関心ではなく、都市ごとにキャンペーンを分けたことで、それぞれの都市の天気に合わせた広告を出せるようになりました。天気に左右される商品では、「誰に」と同じくらい「どこで、どんな天気のときに」が重要になります。
天気ごとの言葉づかいまで工夫した
最も成果が高かったのは、「風が吹かない」という、その日の天気をそのまま言葉にした広告でした。天気をコピーに入れることで、見る人に「今日の自分に向けた広告だ」と感じてもらえます。
最初から比較検証を組み込んだ
同じ予算・同じターゲットで通常の広告と比べたことで、天気に合わせた効果を数字で示せました。効果が確認できたからこそ、その後のより大規模な展開にもつながっています。
日本で応用するなら
日本でも、季節や天気によって売れる商品やメニューが変わる業種は多くあります。Algidaのように「天気ごとに見せる商品とメッセージを変える」考え方は、さまざまな業種に応用できます。
| 業種 | 天気の条件の例 | 出し分けの例 |
| アイス・飲料 | 気温の帯(25℃未満、25〜30℃、30℃以上など) | 気温が高いほど冷たさを強調。雨の日は家で楽しむまとめ買い商品 |
| デリバリー・ネットスーパー | 雨、強風、猛暑 | 「外に出たくない日」に合わせて配達の便利さを伝える |
| 飲食店 | 晴れ・雨・気温 | 晴れの日はテラス席や冷たいメニュー、雨の日はテイクアウトや雨の日クーポン |
| アパレル | 前日との気温差、雨 | 冷え込む日は羽織りもの、雨の日はレイングッズ |
最初から1,000種類の広告をつくる必要はありません。まずは「晴れ用」「雨用」や「暑い日用」「寒い日用」の2〜3パターンから始め、通常の広告と比べながら、効果のあった条件を広げていくのが現実的です。
天気連動型の広告配信システム「ウェザアド」は、日本全国を1km²ごと・約37万エリアに区切り、1時間ごとに更新される気象データを使って、Google・YouTube・Meta(Facebook・Instagram)・Yahoo!などの広告配信を自動で切り替えます。気温・降水量・湿度・風速・前日との気温差などを条件に、広告のクリエイティブや予算、配信のオン・オフを自動で切り替えられるため、Algidaのような「天気ごとに広告の中身を変える」配信も、システムを開発せずに始められます。
天気によって変わる消費行動は、気温が与える購買行動への影響とは?売れるタイミングを逃さない広告戦略や降水時間で変わる消費行動とは?雨の日をチャンスに変える方法を解説でも詳しく紹介しています。
まとめ
Algidaは、都市ごとの天気に合わせて1,000種類以上の広告を自動で出し分け、同じ予算・同じターゲットの通常の広告と比べて、コンバージョン率を121%高めました。売上と広告費用対効果も、通常の広告を上回っています。
この事例のポイントは、天気によって広告を出すかどうかだけでなく、「見せる商品」と「伝える言葉」まで変えたこと、そして最初から比較検証で効果を確かめたことにあります。天気を「売上が落ちる理由」ではなく「別の商品をすすめるきっかけ」と捉えると、雨の日や寒い日にもできることが見えてきます。
海外のほかの事例は、海外のウェザーマーケティング成功事例10選で紹介しています。
参考資料
本記事の数値は、以下の資料にもとづきます。いずれもブランドや広告会社が広告賞に応募した事例資料で、第三者による検証を経たものではありません。
- MMA Global「Algida: This Ice Cream Company Tailored its Messaging to Local Weather Conditions with Dynamic Creative Optimization」
- WARC「Algida: Changing Algida ice creams as the weather changes」(2023年3月、MMA Smarties)
- MMA Global「Unilever: Using Weather Patterns and Iftar Times to Guide Dynamic Creative Optimization」(その後の展開)
