
天気が変わると、お店で売れるものも変わります。暑い日には飲み物やアイスが、雨の日には傘が売れる。小売の現場では当たり前のことですが、これを「勘」ではなくデータで読み解き、品ぞろえや広告に組み込んできたのが、世界最大の小売企業ウォルマートです。
ハリケーンが来る前に、イチゴ味のポップタルトが通常の約7倍売れる。風が弱く気温が27℃未満の日には、ベリー類の売上が最大3倍になる。ウォルマートは、こうした「天気と売上の関係」を自社の販売データから見つけ出し、店舗への商品の配送や売り場づくり、広告の配信に活かしてきました。
本記事では、天気に合わせて品ぞろえや売り場を変える「ウェザーマーチャンダイジング」の代表例として、ウォルマートの取り組みを詳しく解説します。日本の小売で応用する方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ウォルマートの天気活用の概要
ウォルマートの天気の活用は、大きく2つの取り組みに分けられます。
| ハリケーンへの備え | 天気に合わせた売り場と広告 | |
| 時期 | 2004年〜(2018年にも実施) | 2014年ごろ |
| 使った天気 | ハリケーンの進路・接近 | 気温、風、湿度、日照、花粉など |
| 使ったデータ | 過去のハリケーン時の販売データ | 地域ごとの天気と販売データの関係 |
| 主な施策 | 需要が増える商品を、前もって店舗に送る | 天気に合わせて、売り場の陳列とデジタル広告を出し分ける |
| 主な成果 | イチゴ味のポップタルトが通常の約7倍売れることを発見し、品ぞろえに反映 | ベリー類の売上が最大3倍、ハンバーガー関連の広告で売上18%改善 |
小売にとって、天気は売上を大きく左右する
天気は、小売の売上に大きな影響を与えます。2014年の報道によると、ウォルマートは同年の第1四半期に、天候が原因で約1億ドルの損失が出たと説明しています。同じ報道では、アメリカ全体で企業が天候によって失った金額は、1月だけで50億ドル、4月までに150億ドルにのぼると、気象のコンサルティング会社が推計しています。
天気は変えられません。しかし、天気によって何が売れ、何が売れなくなるかが分かれば、先回りして準備することはできます。ウォルマートの取り組みは、この発想から始まっています。
取り組み1:過去のハリケーンの販売データから、必要な商品を予測する
2004年、ハリケーン「フランシス」に備えて
2004年、大型ハリケーン「フランシス」がフロリダに近づいていました。上陸の1週間前、ウォルマートの最高情報責任者(CIO)だったリンダ・ディルマン氏は、数週間前に上陸したハリケーン「チャーリー」のときの販売データをもとに、何が売れるかを予測するよう社内のチームに指示します。
同社が蓄積していた膨大な購買履歴を分析した結果、意外な事実が見えてきました。
- イチゴ味のポップタルト(トースターで温めて食べる菓子)は、ハリケーンの前に通常の約7倍売れる
- ハリケーン前に最も売れる商品はビール
懐中電灯や水のような防災用品が売れるのは予想どおりです。しかし、特定のお菓子の需要まで急増することは、データを見なければ分かりませんでした。停電しても調理せずに食べられ、日持ちもすることが、選ばれる理由の一つと考えられます。
ウォルマートは、ポップタルトとビールを積んだトラックを、フランシスの進路にある店舗へ前もって向かわせました。同社によると、こうして用意した商品の多くはすぐに売れたといいます。ディルマン氏はこの取り組みについて、「起きるのを待つのではなく、何が起きるかを予測できるようになる」と話しています。
2018年、ハリケーン「フローレンス」でも
この考え方は、その後も受け継がれています。2018年にハリケーン「フローレンス」が近づいた際、ウォルマートは前年(2017年)のハリケーン「ハービー」「イルマ」「マリア」で被害を受けた店舗の補充データを分析し、復旧期にどの商品の需要が高まるかを確認しました。そのうえで、進路にある店舗の在庫を強化し、嵐の前から商品を送っています。
同社の発表では、9月16日の時点で次のような商品を地域に送ったと報告されています。
| 水 | 290万ケース |
|---|---|
| 電池 | 95万パック |
| 発電機 | 1,600台 |
| シリアル | 220万箱・袋 |
| 朝食用のバー | 130万箱 |
| ポップタルト | 35万箱 |
ポップタルトは、このときも緊急時に送る商品のリストに入っていました。ハリケーンという「予測できる天気の変化」に対して、過去のデータから必要な商品を見極め、店舗に届けておく。2004年の発見が、15年近くたっても活かされていることが分かります。
取り組み2:天気に合わせて、売り場と広告を出し分ける
気象情報会社と組み、天気と売上の関係を分析
ハリケーンのような大きな災害だけでなく、日々の天気も売上に影響します。ウォルマートは、天気予報「The Weather Channel」を運営するThe Weather Companyの一部門「WeatherFX」と組み、地域ごとの天気と販売データを重ね合わせて、どの商品をいつ売り込むべきかを分析しました。2014年の時点で、この取り組みは約2年続いていたと報じられています。
たとえば、ある地域で気温と湿度が上がると、スポーツドリンクや水の広告を、その店舗のFacebookページやアプリ、店内のデジタルサイネージに出す。花粉が増えると、市販のアレルギー薬を案内する。夏には、ガーデンファニチャーやバーベキューグリルの広告をネットやSNSで出す。天気の変化をきっかけに、地域ごとに広告を切り替えていました。
「ベリーは、風が弱く27℃未満の日に売れる」
当時のウォルマートの最高マーケティング責任者(CMO)、スティーブン・クイン氏は、講演などでこの取り組みを紹介しています。報道によると、ウォルマートが見つけた「天気と売上の関係」は数千にのぼり、たとえば次のようなものがありました。
| 商品 | よく売れる天気 |
| ベリー類 | 風が弱く、気温が約27℃(80°F)未満 |
| サラダ | 気温が約27℃(80°F)を超え、風が弱い |
| ステーキ肉 | 暖かく、風がやや強く、雨がない日。ただし暑すぎない |
| 牛ひき肉 | 気温が高く、風が弱く、晴れの日 |
ウォルマートは、こうした条件に合う郵便番号の地域で、ベリー類の売り場の陳列とデジタル広告を展開しました。その結果、ベリー類の売上は最大で3倍になったといいます。また、条件に合うときにハンバーガー関連の広告を出したところ、売上が18%改善したと紹介されています。
クイン氏は、「なぜ」その天気で売れるのかを必ずしも知る必要はなく、天気と売上に関係があると分かれば十分だと語っています。理由の説明よりも、データが示す関係を素早く売り場と広告に反映することを優先したのです。
メーカーと組んだ広告にも活用
天気のデータは、メーカーとの協業にも使われました。報道によると、ウォルマートはThe Weather Companyと組み、気温が約32℃(90°F)を超えるとスポーツドリンク、約4℃(40°F)を下回るとスープ、花粉が多い日にはアレルギー薬の広告を出す、といった天気で広告を切り替えるプログラムをテストしています。
クイン氏はまた、スポーツドリンクのメーカーに対して「気温が35℃(95°F)のときだけ広告を出す」ことを約束できる、とも話しています。メーカーにとっては、商品が最も必要とされる瞬間に絞って広告を出せるため、無駄の少ない広告になります。
ウォルマートの事例から学べる成功のポイント
自社の販売データから「天気と売上の関係」を見つける
ポップタルトもベリーも、出発点は自社の販売データです。ウォルマートは、過去の天気と販売の記録を重ね合わせることで、担当者の勘だけでは気づけない関係を見つけ出しました。天気の活用は、まず「自社では、どんな天気の日に何が売れているか」を知ることから始まります。
理由が分からなくても、関係が分かれば動く
「なぜハリケーン前にポップタルトなのか」「なぜベリーは風が弱い日に売れるのか」。理由を考えることも大切ですが、ウォルマートはデータが示す関係を素早く施策に反映することを優先しました。数千の関係を一つずつ説明するよりも、使える関係から活かしていく姿勢が、成果につながっています。
予報を使って「先回り」する
天気が変わってから対応するのでは、品切れや機会損失が起きてしまいます。ハリケーンの事例では、上陸の前に商品を送ることで、需要が高まった瞬間に店頭に商品がある状態をつくりました。予報を使って先回りできることが、天気の活用の大きな強みです。
品ぞろえ・売り場・広告を一緒に動かす
ウォルマートは、天気に合わせて物流(商品を送る)、売り場(陳列を変える)、広告(地域ごとに出し分ける)を連動させています。商品を店に置くだけでも、広告を出すだけでも不十分です。「その天気の日に、その商品が店にあり、目に入り、思い出してもらえる」状態をつくることで、売上につなげています。
地域ごとの天気で判断する
ベリーの売り場と広告は、郵便番号ごとの天気で出し分けられていました。同じ日でも、地域によって天気は違います。広い地域の平均ではなく、店舗ごと、地域ごとの天気で判断することが、精度の高い施策につながります。
日本の小売で応用するなら
日本は台風や大雪、梅雨、猛暑など、季節ごとに天気が大きく変わります。ウォルマートの考え方は、スーパーやドラッグストア、ホームセンター、コンビニなど、日本の小売にも応用できます。
| 天気 | 需要が高まりそうな商品の例 | 考えられる施策 |
| 台風・大雪の接近 | 水、電池、カップ麺、パン、カセットボンベ | 予報が出た段階で在庫を強化し、近隣への広告で早めの備えを呼びかける |
| 猛暑日 | 飲料、アイス、冷たい麺、制汗剤 | 気温が上がる地域で売り場を拡大し、店舗周辺に広告を配信 |
| 急な冷え込み | 鍋の素、おでん、温かい飲み物、カイロ | 前日との気温差が大きい日に、鍋物の売り場と広告を強化 |
| 晴れて風が弱い週末 | バーベキュー用の肉、アウトドア用品 | 週末の予報が晴れの地域で、週の後半から広告を配信 |
| 雨の日 | 傘、レインウェア、デリバリー・ネットスーパー | 雨の地域で、ネットスーパーや宅配の利用を案内 |
進め方は、次のような順番がおすすめです。
- 過去の販売データと天気を重ねる:どんな天気の日に、どの商品の売上が増えたり減ったりしているかを確認します。
- 条件を数値で決める:「最高気温が30℃以上」「前日より5℃以上低い」のように、売れ方が変わる境目を決めます。
- 売り場と広告を一緒に動かす:条件に合う日・地域で、在庫や陳列を強化し、同じタイミングで広告も配信します。
- 結果を見て見直す:天気に合わせた施策と通常の施策の売上を比べ、条件を調整していきます。
このうち広告の配信は、天気に合わせて自動で切り替える仕組みを使うと、手間をかけずに続けられます。天気連動型の広告配信システム「ウェザアド」は、日本全国を1km²ごと・約37万エリアに区切り、1時間ごとに更新される気象データを使って、Google・YouTube・Meta(Facebook・Instagram)・Yahoo!などの広告配信を自動で切り替えます。気温・降水量・湿度・風速・前日との気温差・花粉などを条件に、店舗の周辺だけに広告を出すことも可能です。
天気に合わせて品ぞろえを変える考え方は、ウェザーマーチャンダイジングとは?天候で変わる購買行動と広告戦略を解説でも詳しく紹介しています。気温と売上の関係は、気温差で売上が動く!昇温期・降温期に仕掛ける広告戦略とは?もあわせてご覧ください。
まとめ
ウォルマートは、過去の販売データから「天気と売上の関係」を見つけ出し、ハリケーン前の品ぞろえから、日々の売り場づくりや広告の出し分けまで、天気を軸にした施策を展開してきました。
ハリケーン前にポップタルトが約7倍売れること、風が弱く27℃未満の日にベリーがよく売れること。どちらも、データを見なければ気づけなかった関係です。そして、その関係を予報と組み合わせて先回りし、物流・売り場・広告を一緒に動かしたことが、成果につながりました。
まずは自社の販売データと過去の天気を重ねて、「どんな天気の日に、何が売れているか」を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。海外のほかの事例は、海外のウェザーマーケティング成功事例10選で紹介しています。
参考資料
本記事の内容は、以下の報道とウォルマートの発表にもとづきます。2014年の数値(ベリー類の売上最大3倍、ハンバーガー関連の広告で売上18%改善など)は、ウォルマートの講演を紹介した業界メディアの記事によるもので、元の講演資料は確認できていません。
- Constance L. Hays「What Wal-Mart Knows About Customers' Habits」The New York Times(2004年11月14日)
- Walmart「Live Blog: Walmart's Hurricane Florence Response」(2018年9月)
- Talk Business & Politics「Wal-Mart, retailers tune in weather forecasts to spur sales」(2014年10月)
- invidis(sixteen:nine)「How Walmart Serves In-Store Ads Based On Data」(2014年10月、Ad Ageの記事を引用)
- Supermarket News「Retailers geo-target weather-based offers」(2014年)
