
朝、髪がうまくまとまらない。湿気で広がる、乾燥でパサつく。こうした「髪がまとまらない日」の原因の多くは、その日の天気にあります。
P&Gのヘアケアブランド「パンテーン」は、この身近な悩みに目をつけ、天気予報アプリで「ヘアキャスト(髪の予報)」を届ける施策を行いました。新商品がない苦しい状況のなかで、ドラッグストアのWalgreensでの売上を前年同期比24%伸ばし、ヘアケア売り場全体の売上も押し上げています。
本記事では、このパンテーン「ヘアキャスト」の事例について、背景、施策の仕組み、成果、成功のポイントを詳しく解説します。日本で同じ考え方を取り入れる方法も紹介しますので、天気を活かした販促を考えている方はぜひ参考にしてください。
パンテーン「ヘアキャスト」の概要
まずは事例の全体像を整理します。
| ブランド | パンテーン(P&G) |
|---|---|
| 国 | アメリカ |
| 時期 | 2013年(成果は7〜8月の実績) |
| パートナー | The Weather Channel(天気予報)、Walgreens(ドラッグストア) |
| 使った天気 | 地域ごとのリアルタイムの天気(湿度、乾燥など) |
| 媒体 | The Weather Channelのアプリ・タブレット・Web・テレビ、SNS、店頭 |
| 主な成果 | Walgreensでのパンテーンの売上が前年同期比24%増、ヘアケア売り場全体も4%増 |
この施策は、2014年に世界的なモバイルマーケティングの賞「MMA Smarties」で複数の部門に選ばれています。
背景:新商品がないなかで、売り場での存在感を失いかけていた
2013年のアメリカのヘアケア市場では、300を超える新商品が店頭に並びました。一方のパンテーンには、話題になる新商品がありませんでした。
新しい商品に押される形で、パンテーンの主力商品の売上は前年より7%落ち込み、消費者は次々と競合ブランドに移っていきます。重要な販売先であるドラッグストアチェーンのWalgreensも、パンテーンへの信頼を失いつつありました。
そこでパンテーンは、すでに店頭に並んでいる既存の商品だけで、Walgreensでの売上を立て直すことを目指します。目標は次の2つでした。
- Walgreensでの売上を、継続的に10%伸ばす
- Walgreensの全米約8,000店舗のうち、半数の店舗で追加の売り場(陳列スペース)を確保する
着眼点:髪がまとまらない日のきっかけは「天気」
パンテーンが注目したのは、ターゲットである40代前後の女性の「髪がまとまらない日」でした。
髪は見た目の印象を大きく左右する一方で、思いどおりにするのが難しい部分です。そして髪がまとまらない大きなきっかけが、湿度の大きな変化でした。天気のせいでいつものヘアケアがうまくいかないと分かると、女性はセットをあきらめて髪を結んでしまう。こうした「天気に負けた」経験が、新しい商品を探すきっかけにもなっていました。
さらにパンテーンは、もう一つの事実に目をつけます。悩みをすぐに解決したいとき、女性が向かう先は近所のドラッグストアだということです。
天気は変えられない。それでも、その日の天気に備える方法を伝え、すぐ近くのWalgreensで解決策を手に入れてもらうことはできる。これが施策の出発点になりました。
施策の仕組み
天気予報と一緒に「ヘアキャスト」を届ける
パンテーンは、アメリカで広く使われている天気予報の「The Weather Channel」と組みました。多くの人は毎朝、出かける前に天気を確認します。その習慣の中で、天気予報と一緒に「今日の髪の予報」を届けようと考えたのです。
ヘアキャストは、郵便番号ごとの地域の天気に合わせて内容が変わります。たとえば次のように、天気から予想される髪の悩みと、それに合うパンテーンの商品、スタイリングのコツを案内しました。
| 地域の天気 | 髪の予報 | おすすめした商品 |
| シカゴ:高温多湿 | うねり・広がり | アルガンオイル配合のスムース系セラム |
| ロサンゼルス:乾燥 | パサつき | デイリーモイスチャーリニューアル(保湿ライン) |
配信先は、The Weather Channelのスマートフォンアプリを中心に、タブレット、パソコン、テレビまで。女性が天気を確認するあらゆる場所でヘアキャストを届けました。
広告からWalgreensでの購入までつなぐ
ヘアキャストの広告をタップすると、Walgreensのロゴが入ったスマートフォン向けのページが開き、Walgreensで使える2ドル引きのクーポンを受け取れます。ページでは、その天気に対して商品がどう役立つかも説明しました。
「天気予報を見る → 今日の髪の悩みと解決策を知る → クーポンを持って近所のWalgreensで買う」という流れを、一つの施策の中で完結させたのが大きな特徴です。
気象予報士やインフルエンサーを通じて話題をつくる
パンテーンは、各地の気象予報士や美容系のインフルエンサーに「ヘアキャストキット」を送り、地域のヘアキャストを視聴者やSNSで紹介してもらいました。専用のハッシュタグ「#haircast」も用意し、SNS上での会話を広げています。
店頭も天気別に並べる
店頭では、天気の状態ごとに商品を並べた売り場をつくり、自分に合う商品をすぐ見つけられるようにしました。この売り場は、店内のメイン通路に置かれた専用の陳列台で展開され、高い視認性を確保しています。ニューヨークのWalgreens旗艦店では、有名ヘアスタイリストが来店客にヘアキャストのアドバイスをするイベントも行いました。
成果:売上24%増、売り場全体の売上も押し上げ
施策の成果は次のとおりです(2013年7〜8月、前年同期比)。
| 売上 | Walgreensでのパンテーンの売上が24%増(目標は10%増) |
|---|---|
| 売り場全体 | Walgreensのヘアケア売り場全体の売上が4%増 |
| 店頭の売り場 | 5,500店舗で追加の売り場を確保(目標の4,000店舗を37.5%上回る) |
| SNS | 「#haircast」のTwitterでの自然な表示回数が月平均370,655回 |
パンテーン自身の売上が伸びただけでなく、ヘアケア売り場全体の売上も4%伸びた点は重要です。Walgreensにとっても売り場の売上が増える施策になったことで、失いかけていた信頼を取り戻しました。
また、ヘアキャストを毎日の習慣としてチェックする女性も現れ、「#haircast」をつけた投稿の月間の数は7,441%増えたと報告されています。
なお、同じ資料の中では「7〜8月のWalgreensでの売上10%増」という数値もあわせて挙げられています。どちらも成果として報告されている数値ですが、比較の条件は資料の中で詳しく説明されていません。
パンテーン「ヘアキャスト」の成功のポイント
毎朝の「天気予報を見る習慣」に入り込んだ
天気予報は、多くの人が毎朝見るものです。しかも天気を確認するのは、その日の服装や身支度を考えるタイミングでもあります。ヘアキャストは、まさに髪のことを考えている瞬間に、その答えを届けました。広告を見てもらう場面を新しくつくるのではなく、すでにある習慣に寄り添ったことが成功の土台になっています。
天気と商品の関係が、誰にでも分かる
「湿気で髪が広がる」「乾燥でパサつく」は、多くの女性が実感していることです。天気と悩みと商品の関係が分かりやすいため、説明しなくても「自分のための情報だ」と受け取ってもらえます。さらに地域ごとに内容を変えたことで、「今日の、この場所の、私の髪」の話として届きました。
広告・クーポン・店頭まで一貫した体験をつくった
広告で悩みに気づいてもらい、クーポンで買う理由をつくり、店頭では天気別の売り場で迷わず選べるようにする。天気を軸にした一つのストーリーが、アプリから店舗の棚まで途切れずにつながっていました。
メーカーと小売の両方にメリットがあった
この施策は、パンテーンの売上だけでなく、Walgreensのヘアケア売り場全体の売上にも貢献しました。小売にとってもメリットがあるからこそ、目標を上回る5,500店舗で売り場を確保できたといえます。
新商品がなくても、天気で既存商品の価値を伝え直せた
パンテーンは新しい商品を一つも出していません。すでに店頭にある商品を、「この天気の日にはこれ」という形で紹介し直しただけです。天気は、既存の商品に新しい買う理由を与える切り口になります。
日本で応用するなら
日本は梅雨の湿気、夏の暑さと紫外線、冬の乾燥、春の花粉と、季節ごとに天気が肌や髪、体調に与える影響が大きい国です。ヘアキャストの考え方は、日本でもさまざまな商品に応用できます。
| 天気 | 予想される悩み | 案内できる商品の例 |
| 梅雨・湿度が高い | 髪のうねり・広がり、汗やベタつき | ヘアケア、制汗剤、ボディシート |
| 晴れて紫外線が強い | 日焼け、髪や肌のダメージ | 日焼け止め、UVケア商品、日傘 |
| 冬の乾燥 | 肌・唇・髪の乾燥、静電気 | 保湿クリーム、リップ、ヘアオイル |
| 花粉が多い | くしゃみ、目のかゆみ | 目薬、マスク、アレルギー薬 |
| 急な冷え込み | 体の冷え、風邪をひきやすい | カイロ、風邪薬、温かい飲み物 |
パンテーンのように天気予報アプリと組むのは大がかりですが、同じ「その地域の天気に合わせて、悩みと解決策を届ける」ことは、普段使っているWEB広告でも実現できます。
天気連動型の広告配信システム「ウェザアド」は、日本全国を1km²ごと・約37万エリアに区切り、1時間ごとに更新される気象データを使って、Google・YouTube・Meta(Facebook・Instagram)・Yahoo!などの広告配信を自動で切り替えます。湿度や気温、降水、花粉などを条件に、広告のクリエイティブや予算、配信のオン・オフを自動で切り替えられるため、「湿度が高い地域にはうねり対策の広告、乾燥した地域には保湿の広告」といった出し分けも可能です。
メーカーであれば、ドラッグストアや量販店と組んで「天気に合わせた広告 → 店舗のクーポン → 天気別の売り場」をつくる、パンテーンと同じ形の施策も考えられます。
海外のほかの事例は、海外のウェザーマーケティング成功事例10選で紹介しています。天気を配信条件にする仕組みは、ウェザーターゲティングとは?メリット・仕組み・活用事例をわかりやすく解説もあわせてご覧ください。
まとめ
パンテーン「ヘアキャスト」は、新商品がないという厳しい状況のなかで、天気という誰にとっても身近な切り口を使い、既存商品の売上を24%伸ばした事例です。
成功の理由は、毎朝の天気予報の習慣に入り込み、地域の天気と髪の悩みと商品をはっきり結びつけ、広告から店頭の売り場までを一貫してつなげたことにあります。メーカーと小売の両方にメリットのある形にしたことも、大きな成果につながりました。
天気によって悩みや必要なものが変わる商品は、ヘアケアに限らずたくさんあります。自社の商品が「どんな天気の日に必要とされるか」から考えてみてはいかがでしょうか。
参考資料
本記事の数値は、以下の資料にもとづきます。いずれもブランドや広告会社が広告賞に応募した事例資料で、第三者による検証を経たものではありません。
